岩田久人教授
難分解性有機汚染物質(POPs)や内分泌かく乱化学物質・医薬品などの化学物質はヒトばかりでなく、生態系の様々な生物も汚染しています。
私たちは、これら環境汚染物質による動物への毒性影響とリスクについて研究しています。研究対象としてきた動物は、アミ・タイ・サケ・カエル・ニワトリ・カラス・カワウ・イヌ・クマ・アザラシ・クジラなど多岐にわたります。
ヒトや家畜について学べる研究機関は国内にも数多くありますが、野生動物はヒトの生活に密接に関係しているわけではないので、研究できる機関は少ないのが実情です。
環境汚染物質の脅威は私たちに見えないところで野生動物に及んでいますが、野生動物はそれを訴える手段を持っていません。私たちと環境毒性学を学びながら、野生動物の代弁者になりませんか?
お酒に対する反応に個人差があるように、化学物質による毒性影響は動物種間で大きく異なります。この差を説明する一要因として、化学物質の体内侵入時にセンサーのような役割をする「受容体」タンパク質の遺伝情報の差が考えられています。
しかしながら、受容体の働きを様々な動物種間で比較・解析した例は少ないのが現状です。多様な動物を対象に化学物質のリスクを評価するためには、受容体の遺伝情報やその化学物質との反応について、系統学的・生態学的に重要な動物に着目し、その種差を評価することが不可欠です。
私たちは、多様な動物の受容体の遺伝的差異が化学物質に対する感受性にどう影響するのかについて研究しています。また、化学物質に対する感受性を決定する分子的な仕組みについても調べています。
生物は体内で遺伝子の働きを厳密に調整することで情報ネットワークを築き、多くの情報のやりとりをして生命を維持しています。化学物質が体内に侵入すると、生物は多様な遺伝子の働きを変動させながら、化学物質に反応します。このことは、個々の遺伝子の働きを監視して化学物質による情報ネットワークの攪乱の状況を調べれば、それらが制御している生理機能への影響について評価できることを意味しています。しかしながら、化学物質曝露に反応する遺伝子は現在でも数多く知られているわけではありません。
私たちは、化学物質曝露に反応する実験動物や野生動物の遺伝子の働き、すなわちRNA(トランスクリプトーム)やタンパク質(プロテオーム)を包括的に監視する実験系の確立を目指しています。